断熱住宅は、外気温の影響を受けず、室内温度を一定に保つことできる住宅として注目されています。外気温の影響を受けないことで、暖房や冷房の利用を最小限に抑え、快適な室内環境を保つことができます。一方で、適切な換気がないと建物内の湿気がこもりやすくなるデメリットも。
住宅を建てる際には、省エネや快適性も考慮し、断熱の重要性を理解した上で、家づくりを進めることをおすすめします!
今回は断熱住宅について解説していきます。
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断熱住宅とは
断熱住宅は、冒頭でもお伝えした通り、外気の影響を最小限に抑え、室内の温度や湿度を快適に保つための住宅です。断熱材を効果的に使用し、断熱性能を高めることで、暖房や冷房の使用を抑えることが可能となります。これによりエネルギー消費を抑え、省エネ効果が期待できます。
断熱材とは空気の層により熱の移動を抑え、熱の伝導を遅らせる材料のことです。
断熱住宅の定義と概要
断熱には文字通り「熱を断つ」という意味があります。住宅においては、熱を伝わりにくくして「夏は涼しくて、冬は暖かい」状態を実現することを指します。これにより、夏は室内の温度上昇を防ぎ、冬は冷気から室内を守ります。
冷暖房効率がよく、エネルギー消費、二酸化炭素排出量を削減する断熱住宅は、エコ住宅としての評価も高く、環境に配慮した住宅として注目されています。
歴史と背景
断熱の歴史は古く、世界各地でその土地の気候風土に合わせて行われてきました。「断熱材」として普及し始めたのは1880年代にヨーロッパでロックウールが使用されてから。その後、1910年代にグラスウールが船舶の断熱材として使用されたり、1950年代にはセルロースファイバーや発泡ウレタンが開発され、日本の建築にもどんどん利用されるようになりました。
1970年代のオイルショックをきっかけに、「灯油を節約しながら住宅を、何とか暖かい家にしたい」という「省エネ」の必要性が叫ばれるようになり、多くの国で省エネ政策が進められ、その中で断熱住宅の重要性が再認識されました。そして、1979年に日本で初めて「省エネ法」という法律が制定。建築の分野でも翌年の1980年に「省エネルギー基準」というものが制定されました。ここで住宅を断熱することでエネルギーの無駄使いを無くそうという考え方が進みました。
1990年代以降、省エネルギー基準の強化を背景に、断熱住宅に対する関心が高まっています。環境問題や地球温暖化への危機感が一般に広まり、エコ住宅に対する関心が高まる中で、断熱住宅は重要なキーワードとなっています。
以上のように、歴史的な背景や環境への意識の変化が断熱住宅の普及に大きく影響を与えています。
断熱住宅のメリット
断熱住宅は快適性や省エネ性の向上、付随して防音性が向上するなどメリットは様々あります。
その中でも代表的なものは、次の3つです。
エネルギー効率の向上
住宅のエネルギー効率は、エネルギー資源の節約にとっても重要です。住宅の断熱性能が低い住宅の場合、冷暖房効率が悪くなり、一次エネルギーの消費量が増加します。逆に、断熱性能の高い住宅は、外気温の影響を受けにくく、暑い夏や寒い冬でも快適に過ごせるだけでなく一次エネルギーの消費量を大幅に削減することができます。住宅の断熱性能は、住宅のエネルギー効率に大きく影響を与える重要な要素となります。
快適性の向上
断熱住宅の快適性は、室内温度の安定性や適度な湿度管理によって実現されます。外部の気温変化が室内に及ぼす影響が少ないため、暑さや寒さを感じにくく、一年を通して快適な居住空間を維持できます。さらに、快適な室内環境は健康面にも良く、ストレスの軽減や集中力が向上するという効果も。断熱住宅の快適性は、家族の生活を豊かにする重要な要素です。
環境への配慮
断熱住宅は、地球環境への負荷を軽減します。優れた断熱性能により、建物全体のエネルギー消費を抑えることができ、その結果、二酸化炭素の排出量を削減。地球温暖化や環境破壊といった課題に対して、個々の家庭が持つエネルギー消費においても積極的な解決策となります。
環境に配慮した建築手法の普及により、地域全体でのエネルギー消費の削減や環境負荷の軽減につながり、持続可能な社会の形成に貢献しています。
断熱住宅のデメリット
多くのメリットがある断熱住宅ですが、その一方で注意しておきたいデメリットもあります。
3つのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
初期コストの高さ
断熱住宅を建てる際の初期コストは、一般的な住宅よりも高くなる傾向があります。高性能の断熱材や設備を導入することで、建築にかかる費用が増加することが考えられます。
一方で、その分の初期投資に見合うほどの省エネ効果や快適性を得ることができると考えると、初期コストの高さは中長期的な視点で見れば投資として見合う部分もあります。さらに、エコ住宅に対する補助金や助成金などの制度を上手に活用することで、初期投資の負担を軽減することもできます。
結露やカビのリスク
断熱住宅では、建物全体がしっかりと断熱されるため、適切な換気が行われないと室内に湿気がこもりやすくなります。この湿気が原因で結露やカビが発生しやすくなるというリスクがあります。特に寒暖差の激しい時期や、湿度が高い時期は注意が必要です。カビは健康被害を引き起こすだけでなく、建物自体の劣化の原因となるため、定期的な確認と適切な対策が必要です。きちんと対策を行うことで、結露やカビのリスクを軽減し、快適な住環境を保つことができます。
換気の問題
上記でも少し触れましたが、断熱住宅は適切な換気を行わないと建物内の湿気がこもりやすくなります。特に冬場は室内の湿気が外に逃げるのを防ぐため、換気が不十分になりがち。この問題に対処するためには、換気設備を導入するのがおすすめです。例えば、熱交換換気システムや制御可能な換気システムなどを導入することで、湿気の排出と新鮮な空気の取り込みを効果的に行うことができます。
断熱工法の種類
断熱は、施工する建物のタイプによって工法が異なりますが、木造戸建住宅で採用されている工法は、「内断熱(充填断熱)」か「外張り断熱」が一般的です。ここでは、内断熱と外断熱の違い、断熱材の選び方について解説します。
内断熱と外断熱の違い
断熱材を入れる箇所
外断熱と内断熱の分かりやすい違いは、断熱材を入れる箇所です。内断熱は柱と柱に挟まれている部分に断熱材を設置し、建物の内側に断熱層をつくるのに対し、外断熱は建物の外側に断熱層を設け、建物全体を断熱材で包むのが特徴です。
気密性
外断熱では建物全体を断熱材で覆いますが、内断熱は部分的に覆うため、気密性に違いがあります。内断熱の場合、柱などがあるため断熱材を設置できない箇所が出てきます。そのため外断熱と比べて外気が入りやすくなります。
使用できる断熱材
外断熱は使用できる断熱材に制限があります。内断熱はグラスウールやロックウール、セルロースファイバーなど種類が多く、安価なものや断熱効果が高いものが揃い、使用範囲が広がります。壁の内側の空間を利用して断熱材を充填するため、厚い断熱材を入れることが可能です。
断熱材の種類と選び方
断熱材の選び方は、性能や効果だけでなく、材質の特性や安全性、また設置方法や価格なども考慮する必要があります。
一般的な断熱材としては、グラスウールやロックウール、発泡ウレタン、発泡ポリスチレンなどが挙げられます。各材質には適した用途や特性がありますので、用途や環境条件に合わせて適切な断熱材を選ぶことが大切です。特にアレルギーなどの健康面や環境への影響を考慮することも大切です。
断熱住宅の施工ポイントと注意点
断熱住宅を建てる際の施工ポイントとして、まず適切な断熱材の選定と施工、業者選びが重要です。
断熱材の種類や性能によって断熱効果は異なるため、地域の気候や建物の条件に合わせて最適な断熱材を選ぶことが求められます。また、断熱材の施工には隙間なく密閉することが最も大切です。一方で、誤った断熱材の施工法を用いると、壁体内結露や床下小屋裏の結露に繋がります。一概に入れれば良いという事ではありませんので、適所に入れるように注意してください。稀におかしな施工法も見かけます。
さらに、地盤や構造によって断熱効果が変わることも考慮する必要があるので、専門家のアドバイスを仰ぐことが望ましいです。断熱住宅の施工においては、これらのポイントと注意点を把握しておきましょう。
専門家の選び方
信頼できる業者を選ぶためには、複数の業者から見積もりを取り、実績や口コミを確認することが有効です!
専門家の施工実績や資格をチェックし、相談や提案に対して丁寧に応じてくれる業者を選ぶことをおすすめします。価格だけでなく、きめ細やかな対応や説明ができる業者を選びたいですね。また、断熱住宅に特化した専門家や設計士を選ぶことが望ましいです。断熱性能や省エネ性能に精通した専門家がいれば、より効果的なアドバイスを受けることができます。地域の気候や土地の条件に合わせたアドバイスをしてくれる専門家を選ぶことが大切です。断熱住宅の工事は大規模なものとなるため、信頼できる専門家を慎重に選びましょう。
施工時のチェックポイント
断熱住宅を施工する際には、以下のポイントをチェックすることが大切です。
断熱材の適切な選定
断熱材には多くの種類がありそれぞれ特徴が異なるので、目的、用途、施工箇所や費用を踏まえた上で適したものを選ぶことが大切です。
「施工箇所」から断熱材を選ぶ
グラスウール、ロックウールなどの無機繊維系断熱材は水に弱く、雨漏りや湿気によって断熱性能が落ちてしまう素材。結露や雨漏りの起こりやすい天井や床への施工する場合は注意が必要です。湿気の悪影響を受けやすい箇所に無機繊維系断熱材を使用する際には、袋詰めや防水シートなどを用いて、湿気の影響を受けにくくする方法があります。
ただ、発砲スチロール系断熱材は火気に弱いので、火を多く使う台所への施工は控えた方が良いです。
「費用対効果」から断熱材を選ぶ
「フェノールフォーム」「ポリスチレンフォーム」などの発泡スチロール系断熱材は透湿性が低く、繊維系断熱材に比べると耐水性・耐久性に優れているものの、価格が高価になる傾向があります。一方、無機繊維系のグラスウールは水に弱いというデメリットがありますが、他の断熱材と比べると安価なため、デメリットを補う施工することで、施工コストを抑え、無機質なメリットを生かし、耐久性も高くすることが可能です。コストパフォーマンスの高い材料です。
施工時の隙間や漏れのチェック
断熱材を施工する上で一番重要になるのは「隙間」。建物と断熱材との間に隙間を作らないことが大切です。 たとえば、断熱工事をした時に、建物と断熱材の間に隙間ができると断熱性能が弱まる可能性があります。 また、屋外と室内の温度差ができると結露が発生する恐れがあるので注意が必要です。
換気システムの計画
断熱住宅で快適かつ健康に暮らすためには、「換気」が重要です。
高気密高断熱住宅は、24時間換気の設置が義務付けられています。24時間換気システムとは、機械換気設備のことで給気・排気のどちらか、または両方を機械で行い、給気・排気の組み合わせにより3種類に分類されます。適切な換気を確保するためには、計画換気システムの導入が必要です。室内の湿気を適切に排出し、快適な室内環境を維持するために、換気計画を確認しましょう。
第1種換気システム
機械で給気・排気するシステムのことを第1種換気システムと呼び、外気温を室内の温度に近づけて取り込みます。
外の気温を室内の気温に近付けて取り込めますが、設置が大がかりになり、初期費用が高くなりやすいです。
第2種換気システム
機械で給気し、自然に排気するシステムのことを第2種換気システムと呼びます。
機械給気によって新鮮な空気を取り込めますが、外気の湿度や温度もそのまま影響を受けてしまいます。
第3種換気システム
自然に給気し、機械で排気するシステムのことを第3種換気システムと呼びます。
室内が密閉され玄関ドアが開きづらくなる場合もありますが、換気のシステムがシンプルで設置費用も安く、メンテナンスがしやすいのが特徴です。高気密高断熱住宅はこの第3種換気システムがおすすめ。コストを抑えられ、メンテナンスも簡単であること、通風管は排気のみの一方向のため、仮にカビや結露が発生しても、その空気は戸外に排出されるため、家の中は清潔な状態に保ちやすいです。
これらのチェックポイントを押さえることで、より効果的な断熱住宅の施工が可能となります。
断熱住宅の維持管理
断熱住宅を維持管理する際には、定期的な点検とメンテナンスが重要です。
定期的な維持管理を行うことで、断熱住宅の効果を持続させると共に、住宅自体の耐久性も向上させることができます。
定期的なメンテナンス
定期的なメンテナンスを行うことは、断熱住宅の健康と快適さを保つために不可欠です。
壁や屋根に亀裂や塗装のはがれなどがないかをチェック
特に雨漏りや風の影響を受けやすい箇所は重点的に確認することが必要です。屋根のズレやひび割れ、雨樋にゴミが溜まっていないか、屋根に草は生えていないかなどは目視でも確認できるので、1年に1回以上見ておくと、異常があった時に気づきやすいです。
換気や結露のチェック
適切な換気が行われているか、結露がないかを確認し、必要に応じて対策を行います。
本来、高気密高断熱住宅はカビが発生しにくい環境になっています。高気密高断熱住宅は、24時間自動換気システムの義務付けられており、室内の湿気が外へ排出され、常に新鮮な空気が供給されます。ただ、一般的に使われている第3種換気システムでは、ON/OFFのスイッチで制御できてしまうため、冬の寒い時期に止めてしまう方もいらっしゃいます。その場合、換気計画がしっかりと行われないことで空気がこもり、結露を発生させてしまうことがあります。
室内温度や湿度の管理
人が快適に感じる空間は季節によって温度・湿度が異なります。
一般的に、夏は24度〜27度、冬は20度〜24度の室温で、40%〜60%の湿度が健康的で快適に過ごせる温度とされています。適切な温度と湿度を保つことで、断熱材の効果を維持し、住宅の快適性を守ることができます。
長期的なコストパフォーマンス
断熱住宅は、長期的なコストパフォーマンスにも優れています。初期投資が通常の住宅よりも高くなることがあるものの、省エネ効果により光熱費が大幅に削減されます。さらに、補助金などの制度を活用することで、初期費用の負担を軽減することができます。また、断熱材や設備の耐久性が高いため、メンテナンスコストも抑えられる点も魅力です。
さらに、環境に配慮した建材や設備を使用することで、環境負荷を低減することができ、地球温暖化対策や省エネルギーの観点からも、断熱住宅は長期的な視点で考えるとプラスになる選択肢であると言えます。
実例紹介: 断熱住宅の成功事例
断熱住宅の成功事例として、岡山市に建てられたTさま邸をご紹介します。Tさま邸は、断熱性能の高さと快適な室内環境を実現するために、断熱材や窓の仕様や配置にこだわりました。こだわったことで、外部からの暑さや寒さを適切に遮断し、冷暖房設備の使用頻度を抑えることが可能に。さらに、省エネ効果によって光熱費の削減にもつながりました。このような成功事例からも、断熱住宅が持つ様々なメリットが実証されています。
新築住宅の事例
新築住宅においては、断熱性能を重視した家が増えています。屋根や壁、床に断熱材を使用し、高性能な窓を取り付けることで、エネルギーのロスを最小限に抑え、快適な室内環境を実現しています。さらに、太陽光の有効活用や通風システムの工夫など、様々な面で省エネや快適性を追求した新築住宅が増えています。カスケの家では、高気密高断熱住宅が家づくりのベース。建ててからは見えなくなってしまう「壁の内側」や「基礎」を、丁寧に施工し、快適で長寿命の家を目指しています。
リフォーム住宅の事例
リフォーム、リノベーションにおいても、断熱の重要性がますます注目されています。カスケホームのリノベーション部門「カスケのリノベ」では、古い木造住宅をリノベーションする際、新築同等の断熱材の施工をおすすめしています。既存の住宅に断熱材を追加することで、冷暖房の効率が向上し、快適な室内温度を保つことができます。また、断熱性能の向上によって光熱費の節約にもつながります。
新築の場合とは異なり、既存の住宅に断熱を施す場合には、建物の構造や材質に配慮した適切な設計と施工が求められます。また、周囲の環境や各家庭の生活習慣に合わせたカスタマイズも重要です。新築だけでなくリフォーム、リノベーション住宅にも断熱は有効であり、暮らしにおいてメリットがたくさんあります。
まとめ
いかがだったでしょうか?断熱住宅を考える際、まずは省エネや快適性の観点からその利点を理解することが大切です。
今回は断熱を中心にご説明しましたが、本来断熱は気密性とも密接な関係にあります。断熱材の性能を上げて外部からの熱移動を防いだとしても、隙間が多いようであれば空気の流出入によって、屋内は屋外の温度の影響を受けやすくなってしまうため、外気の温度差から室内を守り、冬暖かく、夏涼しい環境を実現するためには、断熱と気密はセットで考えるとより効果を発揮します。ただし、十分な換気がなければ空気がよどみ、健康上のリスクが出てきます。これらを考慮し、断熱材や施工方法を検討し、専門家の意見を踏まえながら適切な選択を行うことが大切です。
住宅を建てる際には、断熱の重要性を理解した上で、エコ住宅としてのメリットも含めて検討してみてください。